月別アーカイブ: 2月 2023

かわら版2023-2号「解雇事案をめぐる公開質問」発行

解雇事案をめぐる公開質問

2022年3月11日付で本学大学院教授(男性・60歳代)に対する解雇処分がなされました。

大学側は当該教授が外部の人物に論文の代筆を依頼したと述べ、就業規則第38条第5号に定める「大学法人の名誉又は信用を著しく傷つけた場合」に該当するとの理由を記しています。当該教授と藤井輝夫総長の間で、司法において係争が続いておりますが、この度の案件は、この係争とは別に、幅広く大学運営、とりわけ学生指導に関わる問題を含んでおります。そこで、東京大学教職員組合では、2022年6月以来、総長から複数回にわたって説明を求めてきましたが、いまだに応じておりません。そこで、以下に公開で一般的な大学運営上の問題を質問することといたしました。なお、同様の質問は総長に対して以前に行なっており、回答は今泉理事から3月10日の団体交渉でいただけるとのことです。

1.未遂の行為を罰している点についての質問

「剽窃」に基づく解雇処分は比較的多く見られる事例です。そのような場合、論文等が完成した段階で、「剽窃」が問題になります。藤井総長の代理人は「単著者性」というなじみのない概念を使いたいようです。この概念が妥当だとするにしても、指導の段階では「剽窃」と共に「著者」が成立していないわけですから、「単著者性」が損なわれるのは、論文が完成した後です。大学側の広報においても「本学の学位認定の課程を歪めかねない」と論じています。つまり「かねない」と、問題の所在が可能性にあることを認めています。可能性があるという理由で、解雇するということは、未遂の行為に対する罰則に他なりません。はば広く未遂の行為を罰するということは、思想や表現の自由を著しく狭めるものです。この点についての説明を求めます。

2.懲罰優先の方針についての質問

この度の当該教員の行為は、刑事罰の対象となる行為ではありません。そのような行為に基づく解雇事案の場合、解雇に至る段階で、警告が度重ね発せられてきました。罰則対象となる行為に対する警告が出されたにも関わらず、当該行為が繰り返しなされるので解雇とする、というのが運用上の慣習です。なぜこの度は、急に解雇という厳罰を与えたのですか。今までの慣習を破り、今後もいきなり厳罰を与えるという懲罰優先の大学運営をされるつもりですか。

3.平等原則を逸脱している点についての質問

この度、たしかに当該教員メールでは不適切な表現がありました。しかし通常、学生指導では、メールのみならず、口頭や赤ペンを用いた書き込みでの表現もあります。これらの表現を問題とし、解雇の論拠とするのであれば、広範な学生指導行為に対しても調査を行う意思があるのでしょうか。その意思がないのだとすると、匿名の指摘があった案件のみを取り上げ、調査し、特定の表現を解雇判断の論拠とし、厳罰を与えるということになりかねません。この度の案件でも、他の教員は同様の不適切な表現を使っていないということは論証されていません。つまり、匿名の指摘があった案件のみを調査対象とし、特定の表現を論拠とし厳罰を下すことは、規則の恣意的な適用を招きかねません。このような恣意性を避け、規則を適用する際の平等原則をどのように確保しようとされているのでしょうか。この点をご教示ください。

4.慎重な審議を妨げている現決定方法についての質問

2018年に匿名のクレームが当該教員に対して起こされ、コンプライアンス事案となり、懲戒委員会が発足し、調査報告書が書かれました。そして、その調査報告書は、2022年2月18日に懲戒委員会で一度限り審議され承認されました。2022年8月8日の教職員組合との団体交渉のなかで、大学側は、2月18日の懲戒委員会で調査報告書はその場限りの資料として回覧され、一定時間後に回収された、と説明しました。一定時間とは15分だったのか、20分だったのか、と訊きましたが、その回答は拒否されました。つまり、東京大学の各種会議で幅広く行われている議案の二度掛けも、通常の裁判においては認められている再審査もなく、厳罰がくだされました。ましてや、罰則そのものを提案している25ページほどの調査報告書を極めて短時間で承認させたことが明らかです。解雇という重大事案についてですから、慎重審議が求められることは言うまでもありません。なぜ慎重審議が必要だとは考えないのでしょうか。また、必要だというのであれば、懲罰に至る現行の決定方法は妥当ですか。

5.匿名の通報やメールに関する質問

この度の解雇処分は、処分そのもので終わらず、むしろ当該教員を誹謗し続けたい人々の行動を助長しています。当該教員の非常勤講師勤務先や顧問先には、匿名の中傷メールが寄せられております。真偽不確かな情報が飛び交うネット社会であるからこそ、プライバシーを尊重しつつも、責任ある立場からの十全な説明の発信が求められています。藤井総長はこの度の案件について、十全な説明をしてきたとご認識ですか。それとも、十全な説明は必要なく、二次的な被害については、総長として何ら責任を感じない、ということでしょうか。

岡田泰平
東京大学教職員組合 執行委員長

なお、総長側は、裁判係争中なので当該教授の解雇処分の詳細については回答を拒絶するものと思われます。他方、大学運営に係る問題については上述以外にも色々な論点がございます。ついては、ご関心のある方は、以下の団体交渉にぜひともご参加くださいますようお願い申し上げます。なお非組合員の方は、書記局(内線:27971)にご一報くださると幸いです。

団体交渉
日時:3月10日(金)10:15-11:15
場所:本郷キャンパス産学連携プラザ2階2AB会議室

ダウンロード:かわら版2023ー2号(解雇事案をめぐる公開質問)

ダウンロード:タテカン(解雇事案をめぐる公開質問)

ゆたかな高齢期をめざす東京の集い

案内をいただきました。

10年特例関連報道等

2023年2月7日、文科省が「研究者・教員等の雇用状況等に関する調査」(令和4年度)の結果(主要項目)を公表
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/mext_01174.html
報道発表資料/文科省
https://www.mext.go.jp/content/20230207-mxt_kiban03-000027043_1.pdf

参考:研究者・教員等特例リーフレット/厚労省・文科省
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000488206.pdf

2023年2月4日東京新聞
海外では円安直撃、国内では雇い止め 研究者の足を引っ張る過酷な環境 「科学技術立国」危うい現実

2022年12月2日赤旗
有期雇用の研究者雇い止め 文科省「望ましくない」/大学に通達 一部で改善も (jcp.or.jp)

記事によると、文科省は各大学・研究機関に対し2022年11月7日に「無期転換ルールの適用を意図的に避けることを目的として、無期転換申込権が発生する前に雇止めや契約期間中の解雇等を行うことは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではない」と通達したそうです。意図的に避けることを目的とするかどうかを証明するのは難しく、予算措置も行ってほしいものです。

2022年10月23日朝日新聞
東大教授、成果あげても雇い止め 研究者殺す「毒まんじゅう」の罠

2022年10月1日東洋経済オンライン
理研、大量リストラまで半年「4月1日」巡る攻防 | 教育 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)

2022年8月19日西日本新聞
“駆け込み”雇い止め再び…法改正10年、無期転換直前の研究職で続出

2022年6月2日榎木英介氏
研究者4500人雇い止め危機〜「稼げる大学」ファンドでは遠い解決〜

2022年5月28日の東京新聞
国公立大や公的機関の研究者 来年3月に約3000人が大量雇い止め危機 岐路の「科学立国」:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.j

2022年5月18日の赤旗新聞
論戦ハイライト/参院内閣委 田村智子議員の質問/国立大学の研究者の非正規雇用化 (jcp.or.jp)

2022年5月18日朝日新聞
国立大研究者、広がる雇い止めの不安 有期→無期雇用の節目に

2022年4月2日榎木英介氏
理研600名リストラ危機が示す研究現場の疲弊


2月7日読売新聞
任期付き研究者の「雇い止め」調査、無期雇用の権利発生する10年目前の契約未定41% 

2月8日東京新聞
研究者ら有期雇用4割が継続未定 「雇い止め」懸念、文科省調査